2025
Sado City, Niigata
480㎡
Restaurant / Hotel
デザインアドバイザー:今井博康
設計施工:株式会社まごころ本舗
照明計画:今井博康 + 平田良
構造計画:平田未来
構造計画助言:一級建築士事務所 アトリエ 縁
既存建築調査資料提供:一級建築士事務所 アトリエ 縁
施工協力:伊藤建設株式会社、伊藤設備株式会社、有限会社三浦電気































新潟県佐渡市、国道350号線沿いに建つ歴史的建築「旧児玉医院」(大正10年〈1921年〉起工)を、宿泊施設と飲食店へと改修するプロジェクトである。
旧児玉医院は長らく使われておらず、雨漏りによる腐食が進行し、床下から木が生えている箇所も確認されるほどに劣化が進んでいた。そのため、プロジェクトの企画当初は施工性や運営面、コスト面から、内装を全面的に解体し刷新する計画が立てられていた。しかし、建築としての歴史的価値を鑑み、可能な限り既存部分を保存・修復する方針へと舵を切った。
計画を進めるにあたっては、歴史的建造物の専門家である清水徹氏(一級建築士事務所アトリエ縁)による「旧児玉医院建物群現況調査報告書」を参考に、各所の腐食の程度、運営上の実用性、予算、施工性、法的制約などを総合的に検討。優先順位を丁寧に整理し、バランスを取りながら計画を進めた。
建物は「医院棟」「台所棟」「座敷棟」「診療棟」という性格の異なる4つの棟から構成されており、各棟の中でも部屋ごとに用途や格式に応じた多様な内装が施されていた。雨漏りなどの影響により傷んだ箇所も多く、「保存・修繕する部分」「仕上げを剥がす部分」「新しく追加する仕上げ」が継ぎはぎ状にランダム的に混在する複雑な構成となった。
そのうえで宿泊施設と飲食店として部屋を分割しため、各部屋ごとに異なる比率で「既存部分」「露出した躯体や下地」「新規仕上げ」が組み合わされた。既存部分が残るの比率が低い部屋には、新たな魅力を引き出す「遊び」の要素を差し込むことで、各室がまったく異なる印象を持つ空間へと生まれ変わった。
このように、部屋ごとに異なる空間体験を提供することで、他の部屋への興味や関心を誘い、宿泊者のリピートにもつながることを期待している。
本プロジェクトは、使われることなく朽ちていくはずだった歴史的建築が、オーナーの決断により保存・修繕・再活用される好例となった。今後も施設の運営を続ける中で、メンテナンスの際にまだ手を加えきれていない魅力的な部分を少しずつでも修復し、時間をかけて建物本来の姿に近づけていきたいと考えている。